【放射線治療】電離箱線量計の表示値Mrawを補正する

【放射線治療】電離箱線量計の表示値Mrawを補正する
カテゴリ:

放射線治療において、線量を測定するときは「電離箱線量計」をよく使います。

実際に測定すると、電位計に値が表示されます。

このときの値を「表示値」といいます。
記号では「Mraw」と表します。

電離箱線量計の表示値から、水吸収線量が計算されます。

しかし、表示値 Mrawはそのままだと計算に使えません。
補正が必要です。

補正することで真の表示値「MQ」が得られます。
真の表示値 MQを使えば、水吸収線量を計算できます。

ややこしいですよね。

そこでこの記事では、電離箱線量計の表示値 Mrawを補正する方法をわかりやすく解説します。

内容は以下です。

  • Mrawを補正する式
  • 必要な補正係数
  • kTP(温度気圧補正係数)
  • kelec(電位計校正定数)
  • kpol(極性効果補正係数)
  • ks(イオン再結合補正係数)
  • 水吸収線量の求め方

Mrawを補正する式

Mrawを補正する式

結論から言うと、Mrawを補正して真の表示値 MQを求める式は上記のようになります。

ただ、標準計測法 12では、ちょっと違う形の式が紹介されています。

Mrawの平均値を補正する式

標準計測法 12の式は上記のような感じです。

MQraw」というのは、Mraw平均値のことです。

基本的に、線量測定は複数回行うべきです。
それにより、複数の表示値が得られます。

複数の表示値を平均した方が、より信頼できる値になるわけです。

上記の式を見てわかる通り、Mrawを補正するには色んな「補正係数」が必要です。

必要な補正係数

Mrawを補正するのに必要な補正係数は以下です。

  • kTP(温度気圧補正係数)
  • kelec(電位計校正定数)
  • kpol(極性効果補正係数)
  • ks(イオン再結合補正係数)

kTP(温度気圧補正係数)

電離箱線量計の中には空気が入っています。
その空気の気温と気圧によって表示値は変わります。

どんな気温、気圧でも表示値が一定になるように補正しないといけません。

そこで、温度気圧補正係数を使います。
kTP」という記号で表されます。

kTPを求めるためには計算が必要です。
kTPの求め方は別記事で解説しておりますので、ぜひ参考にしてください。

>> 参考:【放射線治療】温度気圧補正係数の求め方を解説【線量測定で使います】

ちなみに、放射線治療専門放射線技師認定試験では、kTPを計算で求める場面が多いです。

kelec(電位計校正定数)

電離箱線量計には「電位計」というものがケーブルでつながっています。
電離箱線量計で放射線を測定すると、電位計に表示値が表示されます。

電離箱線量計や電位計は、使っているとだんだん正確な測定ができなくなってきます。
そのため、定期的に「校正」をする必要があります。

校正というのは、簡単に言えば「正確に動作してくれるように調整すること」です。
校正は専門機関にお願いすることになります。

電位計を校正すると、「電位計校正定数」というものが発行されます。

電離箱線量計と電位計をセットで校正した場合は、電位計校正定数は1です。

しかし、最近では電離箱線量計と電位計を分けて校正する「分離校正」が主流です。
分離校正をした場合、電位計校正定数は1ではなくなります。

僕が最近見た電位計校正定数は「1.0006」という数字です。
まあ、ほぼ1と言ってもいい数字ですよね。

しかし、表示値Mrawを正確に補正するためには無視できません。

kpol(極性効果補正係数)

測定をするときは、電離箱線量計に「印加電圧」をかけます。
印加電圧をかけないと測定はできません。

例えば、「-300V」の印加電圧をかけたり「+200V」の印加電圧をかけたりすることができます。
そんな感じで、印加電圧はだったりだったりします。

そして、印加電圧の正負によって表示値が変わることがあります。
この現象を「極性効果」といいます。

標準計測法 12によると、以下です。

  • X線を測定するときは極性効果を無視できる
  • 荷電粒子(特に電子線)を測定するときは極性効果が出やすい

というわけで、電子線の測定をするときは極性効果を補正しないといけません。
そのときに使われるのが、極性効果補正係数kpolです。

ks(イオン再結合補正係数)

繰り返しですが、電離箱線量計の中には空気が入っています。

電離箱線量計に放射線が当たると、中の空気がイオン化します。
つまり、「+」と「-」に分かれます。

その「+」と「-」を検知することで、放射線を計測できるわけです。

しかし、「+」と「-」は漏れなく全部検知できるわけではありません。
しばらくすると「+」と「-」は、再び結合してしまいます。

この現象をイオン再結合と言います。

それを補正するのが、イオン再結合補正係数です。
ks」という記号で表されます。

水吸収線量の求め方

ここまでで、表示値「Mraw」を真の表示値「MQ」に補正できました。

次にやりたいことは、「水吸収線量を求める」です。
水吸収線量は「DW, Q」で表されます。

Mrawを補正してMQを求める式

水吸収線量「DW, Q」は、上記の式で求められます。
「ND, W」というものがあります。

「ND, W」は、「水吸収線量校正定数」です。

水吸収線量校正定数については、別の記事で解説しております。
詳しく知りたい方は以下のリンクからどうぞ。

>> 参考:【放射線治療】水吸収線量校正定数とは【式を使って解説】

というわけで、記事は以上です。