【放射線治療】水吸収線量校正定数とは【式を使って解説】
放射線治療関連の測定では、「水吸収線量校正定数」という言葉をよく目にしますよね。
今回はこれについて解説します。
内容は以下です。
- 水吸収線量校正定数とは
- 水吸収線量校正定数の求め方
- 水吸収線量校正定数の単位
- 水吸収線量校正定数の使い方
- 表示値「MQ」の求め方
水吸収線量校正定数とは
標準計測法 12では、以下のように書かれています。
基準線質Q0照射による水吸収線量を電離箱線量計の表示値で除した定数。線量標準機関によって個々の電離箱線量計に与えられる。
標準計測法 12より引用
上記の意味を簡単にご説明します。
「基準線質」というのは、「60Coから放出されるガンマ線」のことと考えていいです。
「線量標準機関」は、2023年5月現在だと「公益財団法人 医用原子力技術研究振興財団」のことです。
略して「ANTM」だそうです。
ANTMには60Coがあります。
それを使って、全国の色んな施設から送られてくる電離箱線量計の校正が行われているわけです。
電離箱線量計を校正するときは、水温だったり気圧だったりが厳密に管理されています。
かなりシビアなことが行われているんじゃないかと思います。
60Coから放出されるガンマ線を電離箱線量計で測定すると、電位計に「表示値」が表示されます。
電位計は、電離箱線量計とケーブルでつながっている機械のことです。
60Coから放出されるガンマ線は常に一定です。
そのため、水吸収線量も一定になるはずです。
例えば、同じ型の電離箱線量計が2つあったとします。
その2つで、60Coから放出されるガンマ線を測定したとします。
表示値は同じだと思いますか?
実は、微妙に違います。
ほぼ同じかもしれませんが、でも違います。
水吸収線量は同じなのに、表示値が違うわけです。
そこで、こうします。
「60Coから放出されるガンマ線の水吸収線量を表示値で割った値」をそれぞれの電離箱線量計に与える
上記の「60Coから放出されるガンマ線の水吸収線量を表示値で割った値」が、「水吸収線量校正定数」です。
水吸収線量校正定数は「ND, W, Q0」で表されます
水吸収線量校正定数の求め方
60Coから放出されるガンマ線を電離箱線量計で測定し、電位計に表示される表示値を「MQ0」とします。
そして、60Coから放出されるガンマ線の水吸収線量は「DW, Q0」で表されます。
「Q0」というのは、60Coから放出されるガンマ線のことです。
これにより、水吸収線量校正定数「ND, W, Q0」は上記の式で求められます。
ですが、一般的には「ND, W, Q0」の中の「Q0」は省略できます。
そのため、水吸収線量校正定数といえば「ND, W」という表記が使われます。
というわけで、上記の式も同じく水吸収線量校正定数を求める式となります。
水吸収線量校正定数の単位
60Coから放出されるガンマ線の水吸収線量である「DW, Q0」の単位は「Gy(グレイ)」です。
電離箱線量計で測定したときの表示値「MQ0」の単位は「nC(ナノクーロン)」です。
表示値は、電離箱線量計が検知する「電荷量」なので「C(クーロン)」でも間違いではありません。
ですが、電離箱線量計で検知される電荷量はものすごく少ない量なので、普通は「nC(ナノクーロン)」で表されます。
ということで、水吸収線量校正定数の単位は「Gy / nC」となります。
水吸収線量校正定数の使い方
「水吸収線量校正定数を求めるのはいいけど、何に使うの?」
こういう疑問がありそうなので、解説します。
最終的な目標は、以下です。
電離箱線量計を使って、リニアックから出てくる放射線の吸収線量を知りたい
そのために、水吸収線量校正定数を使います。
さっきから、電離箱線量計で60Coから放出されるガンマ線を測定する話ばかりですよね。
しかし、それは電離箱線量計を校正するためです。
「校正する」っていうのは、簡単に言えば「正確な測定ができるように調整すること」です。
「校正された電離箱線量計」を使って、最終的にはリニアックから出てくる放射線を測定したいわけです。
測定して得られる表示値から、計算を行うことで水吸収線量が求められます。
もうなんかややこしいと思うので、式を見ていきましょう。
先ほど解説した、水吸収線量校正定数を求める式を変形すると上記のようになります。
水吸収線量を求めるには、表示値に水吸収線量校正定数をかけてあげればいいわけです。
これは、60Coから放出されるガンマ線以外の放射線の水吸収線量を求める場合も同じ考えでいけます。
60Coから放出されるガンマ線以外の放射線の水吸収線量を求める場合は、上記の式を使います。
例えば、リニアックから出てくる放射線の水吸収線量を求めたいときとかです。
校正された電離箱線量計なら、水吸収線量校正定数はすでにわかっています。
あとは測定して、表示値「MQ」がわかれば水吸収線量を求められます。
しかし、今回は表示値に水吸収線量校正定数をかけるだけではだめです。
なぜなら、「線質」が違うからです。
どういうことかというと、今回測定したいのは「リニアックから出てくる放射線」であり、「60Coから放出されるガンマ線」ではありません。
つまり、「線質」が違うわけです。
「リニアックから出てくる放射線」の水吸収線量を求めたい場合、表示値に水吸収線量校正定数をかけた上で「ある係数」をかけないといけません。
それが「線質変換係数」です。
記号で表すと「kQ, Q0」です。
というわけで、「リニアックから出てくる放射線」の水吸収線量を求める式は上記のようになります。
表示値「MQ」の求め方
ここで、上記の「MQ」は表示値なんですが、ちょっとこれがややこしいです。
電離箱線量計で「リニアックから出てくる放射線」を測定しただけでは、「MQ」は得られません。
測定で得られるのは「Mraw」です。
「Mraw」は「補正前の表示値」です。
ややこしいですね。
「Mraw」に色んな係数をかけることで、ようやく「MQ」が求められます。
式にすると、上記のようになります。
この式の詳しい説明は、別の記事で解説しております。
詳しく知りたい方は以下のリンクからどうぞ。
>> 参考:【放射線治療】電離箱線量計の表示値Mrawを補正する
というわけで、記事は以上です。