【放射線治療】TPR20, 10とは【答え:線質です】
「放射線治療を勉強しているんだけど、TPR20, 10の意味がわからない…。ていうかこれ必要なの?」
今回は上記の悩みにお答えします。
TPR20, 10は一言でいうと、「線質指標」として使われます。
わかります、それがわからないんですよね。
というわけで、この記事で詳しく解説していきます。
内容は以下です。
- 最終目標は「水吸収線量」
- TPR20, 10はなぜ必要なのか
- TPR20, 10の求め方
- TPR20, 10を得るための測定
順番に見ていきます。
最終目標は「水吸収線量」
最終的な目標は、以下です。
リニアックから出てくる放射線の「水吸収線量(Gy)」を知りたい
これだけのために、いろんな計算が必要なんです。
測定しただけではだめなんです。
だから放射線治療は面倒だと思われやすいのかもですね。
ですが、仕方ないです。
やっていきましょう。
まず、電離箱線量計を正しく設置してリニアックから出てくる放射線を測定します。
このときに得られるのは「表示値(Mraw)」です。
この表示値に、いろんな係数をかけます。
これでようやく、リニアックから出てくる放射線の水吸収線量が求められます。
「いろんな係数」といわれてピンとこないなら、以下の記事を参考にしてみてください。
まずはそこからです。
>> 参考:【放射線治療】電離箱線量計の表示値Mrawを補正する
TPR20, 10はなぜ必要なのか
上記で説明した「いろんな係数」の中に、「線質変換係数」というものがあります。
記号でいうと「kQ, Q0」です。
線質変換係数がなぜ必要なのかは、以下の記事で解説しております。
>> 参考:【放射線治療】水吸収線量校正定数とは【式を使って解説】
ここでは簡単に考えます。
- 「TPR20, 10」がないと「線質変換係数」がわからない
- 「線質変換係数」がわからないと「水吸収線量」がわからない
上記のとおりです。
というわけで、TPR20, 10を求めないといけませんね。
TPR20, 10の求め方
「TPR」というのは「Tissue Phantom Ratio」の略です。
日本語でいうと「組織ファントム線量比」です。
要するに何かと何かの「比」なわけです。
そのため、計算で求めないといけません。
TPR20, 10を求める式は上記のとおりです。
それぞれの記号の意味は以下です。
- D(Dose):水吸収線量(Gy)
- d(distance):水面からの深さ(g cm-2)
- A(Area):照射野の大きさ
「水面からの深さ」の単位がちょっと気になりますよね。
なんで「cm」じゃないのかって感じです。
理由としては「物質の密度を考慮するから」です。
意味不明ですよね。
難しく考えず以下のように考えましょう。
d(distance)は、水面から電離箱線量計までの距離であり、単位は「g cm-2」を使う
※「g cm-2」は「g/cm2」とも書きます。
というわけで、上記の式のとおりTPR20, 10は「水吸収線量」の比で求められます。
具体的には、
「水面から10 g cm-2の深さに電離箱線量計を設置して、リニアックから出てくる放射線を測定した場合の水吸収線量(Gy)」
を分母にしたときの
「水面から20 g cm-2の深さに電離箱線量計を設置して、リニアックから出てくる放射線を測定した場合の水吸収線量(Gy)」
の値がTPR20, 10です。
でもこれ、ちょっと矛盾してます。
先ほども解説しましたが、以下です。
- 「TPR20, 10」がないと「線質変換係数」がわからない
- 「線質変換係数」がわからないと「水吸収線量」がわからない
つまり、「TPR20, 10」がわからないと「水吸収線量」がわかりません。
なのに、「TPR20, 10を求めるために水吸収線量が必要」って意味わからないですよね。
そこで、解決策があります。
TPR20, 10は、表示値の比でもあります。
表示値は「M」という記号を使います。
表示値は、電離箱線量計で放射線を測定したときに電位計に表示される値のことです。
この表示値の扱いも結構面倒です。
電位計に表示される表示値は「Mraw」であり、これにいろんな係数をかけることで、真の表示値「MQ」になります。
このあたり、もう少し詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
>> 参考:【放射線治療】電離箱線量計の表示値Mrawを補正する
上記の式の「M」は「MQ」のことであると考えていいと思います。
というわけで、いったんまとめると以下です。
- TPR20, 10を得るには電離箱線量計での測定が必要
- 電離箱線量計で測定すれば、表示値「M」が得られる
- 表示値「M」が得られれば、TPR20, 10を求められる
TPR20, 10を得るための測定
というわけで、リニアックから出てくる放射線を電離箱線量計で測定しないといけませんね。
どんな測定をすればTPR20, 10が得られるのか解説していきます。
使う道具
主なものとしては以下です。
- 3D水ファントム
- 電離箱線量計
- 電位計
- 水温計
- 気圧計
「3D水ファントム」というのは、例えばTOYO MEDIC社の「1D SCANNER」のようなものです。
「電離箱線量計」は、例えばPTW社の「TN30013」というものです。
以下のリンクから、TN30013の画像と詳しい仕様が見れます。
「電位計」というのは、例えばTOYO MEDIC社の「RAMTEC」だったり、PTW社の「UNIDOS」のことです。
測定の方法
画像で見てもらうのが早いかもです。
3D水ファントムの中に水を入れます。
その中に電離箱線量計を沈めてセットします。
「TN30013」という電離箱線量計であれば、防水なので水の中に入れても大丈夫です。
まずは「d = 10 g cm-2, A = 10 cm x 10 cm」の状態になるようにセッティングします。
上の画像のような感じです。
「SCD」というのは「Source to Chamber Distance」の略です。
「リニアックの中の放射線源から電離箱線量計までの距離」という意味です。
「SSD」というのは「Source to Surface Distance」の略です。
「リニアックの中の放射線源からファントム表面までの距離」という意味です。
今回の場合、「SSD」は「リニアックの中の放射線源から水面までの距離」ですね。
上記の画像のようにセッティングして、一定量の放射線を出してみてそれを測定するわけです。
例えば「100MUのX線」を出してみるとしましょう。
すると電位計に表示値が出ます。
その表示値を記録しておきます。
次に、上の画像のようにセッティングします。
「d = 20 g cm-2, A = 10 cm x 10 cm」の状態です。
さっきより電離箱線量計を10cm沈めて、3D水ファントムを10cm天井側に持ち上げました。
SSDは80 cmになっています。
この状態で、さっきと同じ「100MUのX線」を測定してみます。
そして表示値を記録します。
- 「d = 20 g cm-2, A = 10 cm x 10 cm」のときの表示値
- 「d = 10 g cm-2, A = 10 cm x 10 cm」のときの表示値
上記の2つの比を計算すれば、TPR20, 10を求めることができます。
というわけで、記事は以上です。